昔の人の世界観は単純で、もし、この世に人間の予測できないことがあればそれは人間の理解が足らないのであり、人間が自然法則を完全に理解すればこの世は完全に理解可能、という考えだった。これに対し、前世紀末に発見され、今世紀後半に再発見されて一大ブームになったカオスの考え方によれば、人間が自然法則を理解できても、予測ができるとは限らない、ということになる。カオスが出現するような系では誤差が急速に増大するので未来が予測できなくなる。どのくらい急速に誤差が大きくなるかと言うと大体、単位時間あたりの誤差を時間の長さだけ掛け合わせる程度である。例えば、一秒に誤差が2倍になるとしよう。10秒後には誤差が2^10=1024倍になる。これでは、どんなに最初の誤差が小さくてもあっと言う間におおきくなってしまう。カオスのもっとも簡単な例として次のような操作を考えよう。「ゼロと1の間のある数からその数の2乗引いて3.7倍する」これをN回くり返した時、最初の誤差がどのくらい増大するだろうか?が最初の値が0.01だけ違った時、値がどの様に変わるかと言うグラフである。ほとんど同じ値から始まったにも関わらず、あっと言う間に全然、違う値になってしまうのが解るだろう。こんな単純な操作の中にもカオスは隠れている。まして、現実の世界ではカオスは至るところに隠れているのである。