ミツバチの巣の中にいる働きバチ達は、基本的には全て女王バチの娘達です。それでは父親はどうでしょうか?女王バチは交尾のために巣の外に飛んで行き、雄バチ達と交尾をします。その時、一匹の雄バチから精子をもらうわけでなく、10匹程度の雄バチから均等に精子をもらい、10分の1ずつ混ぜ合わせてあとは捨ててしまいます。この精子を持って帰った女王バチは巣の中で卵を生みながら、蓄えた精子で次々に受精させて行きます。ですから、働きバチは基本的には異父姉妹、というわけです。
では、働きバチがすべて雌だとしたら、雄はどこから生まれてくるのでしょうか?これは実に不思議なことですが、「受精しない卵は雄になる」というルールがあります。つまり、雄バチは遺伝的には女王バチの完全なクローンになります。一方、雌である働きバチ達は、普段は女王バチのだすフェロモンで出産を押えられていますが、事故で女王バチがいなくなってしまった時など、先を争って、卵を生み始めることがあります。雌バチは交尾をしていませんから、生まれる卵はすべて雄バチになります。処女懐胎で生まれた「男子」とはキリストの様ですが、その運命もまた、キリストの様にはかないものです。成熟した雄バチは巣から飛び出してパートナーを捜している雌バチを見つけて交尾します。雄バチの寿命はここまでで、交尾の直後に死んでしまいます。こんな雄バチですから、恋の季節以外には非常にわずかな数しか巣の中に存在しません。
この様な生殖機構のため、巣どうしにも何らかの血縁関係が生じることになります。雄と雌の結婚は遺伝子的には、巣の代表ともいうべき女王蜂同士の結婚に他ならないからです。この「巣間の血縁関係」は大事な研究課題なのです。