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     インタラクティブ・サイエンス・コラム・メイル
           1997/11/20号 (不定期刊)
     本日のお題:ピサの斜塔の伝説
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  ピサの斜塔、を御存じだろうか?世界の七不思議の一つと言われた、イタリアにある斜めになっているのに倒れない塔のことである。聞くところによれば今ではこの塔は本当に倒れそうなので立ち入り禁止になっているそうだが、この塔には別の「伝説」がある。これを読んでおられる方なら一度は聞いたことがあると思うが、それはガリレオにまつわるものである。ガリレオ、と言っても木星探査衛星の話じゃ無くてガリレオ=ガリレイその人にまつわる伝説である。
 ガリレオ以前はアリストテレスの力学が信じられていて、「重いもの程速く落ちる」と思われていた。正しくは重いものも軽いものも本来同じ速度で落ちるはずなのだが、空気抵抗のおかげで、鳥の羽、みたいなものはパチンコ玉よりずっとゆっくり落ちる、である(空気抵抗があるからこそ、パラシュートなんてものがあり得るのだし、真空中では東京タワーのてっぺんから落ちたアリは地面に激突して死ぬだろう)ことに気付いたガリレオは、人々にそれを知らしめるため、ピサの斜塔のてっぺんに登り、同じ大きさの鉄の球と木の球を落とし、両者が同時に地面に着くことを見せたと言う。
 勿論、これはただの伝説に過ぎない。実際にガリレオがやったことは衆人環視の場での公開実験などではなく、実験室での地道な計測だった。ものの話では、彼は様々な傾きの斜面の上で、いろいろな重さの球を転がし、斜面の頂上から末端までの高さが同じなら斜面の傾きや材質によらず、いつも同時に球が斜面の下端にたどりつくことを見い出したと言う。
 さて、この話はいかにも本当のようだが、本当に本当なのだろうか?例えば、大きさのちがう球を転がしたらどうなるのだろうか?極端な話、ボーリングの玉とパチンコ玉を転がしても同時に斜面の転がり終えるのだろうか?心配御無用。ちゃんとした計算をしてやれば、パチンコ玉でもボーリングの玉でも「斜面を下り終えるのにかかる時間」は同じなのだ。
 「そうか。じゃあ、やっぱり、ガリレオはちゃんと大きさの違う玉でも同じ速度で転がることを確認して結論を出したんだな。偉い、偉い」ちょっと待ってくれまだ話は終わって無い。実はまだ先があって、確かに転がるのにかかる時間は球の大きさや重さにはよらない。しかし、球以外のものを転がしたら、速度は違うのだ。例えば、斜面を転がすなら球よりも中空のパイプとか短く切った棒の方がまっすぐ転がすのには適当だと思わないか?ところが、球とパイプと棒では転がる速度が違うのだ。球とパイプと棒を斜面のてっぺんから転がしたら、斜面を下りおえる順番は球、棒、パイプの順になる(*)。しかもややこしいいことに、パイプ同士、棒同士は長さや太さや重さのいかんに関わらず、斜面を下りおえるのにかかる時間は同じなのである。
 ここで疑問だ。ガリレオは球以外のものを転がしてはみなかったのだろうか?もし、やってみたとして、球とパイプと棒では速度が違うことに気付いても自信をもってアリストテレスの(当時としては権威あった)力学を否定できたのだろうか?
 聞くところによれば、メンデルの実験は稚拙すぎて遺伝の法則をきれいに出すことは出来ないはずだそうである。で、あれはメンデル自身がデータを操作したか、あるいは、実際に実験をした人物がメンデルの御機嫌を損ねないようにデータをねつ造したのかもしれない、という話もあるらしい。ガリレオも同じだったのではなかろうか?彼の斜面の実験はアリストテレスを打ち砕くには余りにも稚拙だった。だが、彼はそこを信念と直感で押し切ったのではないだろうか?科学史家はどう思っているのだろうか?私はふと思うのだ。ピサの斜塔での落下実験が伝説であるように、斜面の実験でガリレオが落体の法則に確信を持った、というのもやはり伝説に過ぎないのでは無いかと。ピサの斜塔の伝説と斜面の伝説。真実を知っているのは神とガリレオだけだろうが。
 (*)これは20年前には「剛体の力学」として高校で教えていたレベルである。今でも大学の理工系の基礎的な力学の講議では必ずやる問題だろう。にも関わらず、私はつい最近までこの事実に気付かなかった。

○インタラクティブ・サイエンス・コラム・メイル1997/11/20 (購読者:709名)
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