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=== Interactive Science Column Mail ==================================
     インタラクティブ・サイエンス・コラム・メイル
           1997/11/30号 (不定期刊)
     本日のお題:キリンの斑論争
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  一体、どこで読んだのか、もうさだかでは無いのだが、ある本に「現代科学は"Why?"をめざして"How?"に終わる学問である」という文章があった。つまり、科学のもともとの動機は「宇宙はなぜあるのか?」とか「我々はなぜ存在するのか?」という哲学的な問いなのだが、科学の手法はこれに答えることができないので、「宇宙はどうやってできたか」とか「人間はどうやってできたか(=単細胞生物から人間にどう『進化』したか?)」ということを答えて終わりになる、とかいうようなことである。
 生物学はそんななかでは「なぜ」に比較的こだわる学問の様な気がする。シマウマの縞は「なぜ」できたか(=進化論的にシマウマの縞はどう有利に働いたのか?)というようなことに(*)比べると「シマウマはどうやって縞を作っているのか」ということにはあまり興味をよせない様に思われる(偏見だったらごめんなさい)。
 大体、そう言うときに"How"に興味を寄せるのは物理学者や数学者と相場が決まっている。勿論、生物学的に「どこどこの遺伝子が縞をつかさどっている」という答えはあり得るのだが、数学者や物理学者は、そういう答えには満足しない。「一般的に縞をつくる規則があるのではないか?」などと「邪推」する。そして、生物学者に「生物のことなど何も知らないくせに勝手なこと言うな」と一蹴される。
 そんなやりとりの古典的名作(?)に「キリンの斑論争」と呼ばれるものがある。これは寺田寅彦の弟子で、後に物理学会長にまでなった人物「平田森三」が言い出した珍説(?)で、「たんぼのひび割れとキリンの斑は良く似ている」ということから「キリンの斑は成長過程で皮膚がひび割れることによりできる」というアイディアを述べたものである。なにしろ、後に物理学会長にまでなった人物だから、このアイディアは「科学」などというメジャーな科学雑誌(**)にのってしまい、早速、生物学者から「いいかげんなこというな!」と一蹴され、最後は感情的な論争に発展し非生産的な議論のまま、立ち消えとなる。
 さて、それから60年程たった今日の目から見て、平田説はどうだったのか?「科学」の11月号でその検討が試みられている。結論から言えば、平田によるキリンの斑説はやはり間違いだったようだが、実は、平田説で説明できる模様は実際にあり、「マスクメロン」の模様がそうなのだという。その後、ヨーロッパでは数学者によって「体の縞模様」をつくり出す統一的なメカニズム(チューリング・パターンと呼ばれる)が提案され、つい先頃、タテジマキンチャクダイという魚の縞模様がこのメカニズムで出来上がっているらしいことが確認された。くだんの11月号の記事を書いたのはこの研究をした当人(=日本人)なのだが、彼はこんな風に結んでいる「もし、生物学者が平田の説を一蹴せずに、『キリンは嘘だがマスクメロンならその説は正しい』と反論していたらどうだっただろうか?ひょっとしたら、平田は感情的な反論を返すことも無く『なるほど、私が誤っていた。じゃあ、動物の縞はどうやってできているのか?』という建設的な議論になり、チューリング・パターンの理論は日本人によってなされ「ヒラタ・パターン」と呼ばれていたかも知れない。実に残念なことだ」と。
 人間、誰しも面子を潰されれば頭にくる。しかし、そこをぐっと堪えると何か建設的なことがあるかもしれない。もっとも、そんな神様見たいなことができるような人間なら、そんな我慢をするまでもなく、最初からばっちり正解を出して来るのかも知れないが。チューリング・パターンを考え出したチューリングさんは生物学者にどんな「仕打ち」を受けたんだろうか?寡聞にして知らない。一度、誰かに聞いてみたいものだとかねがね思っている。

チューリング・パターン



(*)一説によると危険な寄生生物を媒介する昆虫を近寄らせないためということらしい。ところで、シマウマの縞は白地に黒だと思っていませんでしたか?現地のブラックな人たちは黒地に白だと思っているそうだ。つまり、「白地に黒」っていうのは「人種的偏見」に過ぎない、ということらしい(もっとも、そういう意味ではブラックな人たちも「人種的偏見」から自由では無いわけだが)。ちなみに、真実は「黒地に白」だという。結果的には「偏見」の持ち主は「ホワイト/イエロー」な人たちだったということになるのだろう)
 (**)科学(岩波書店、1933年、441ページ、(再掲)1966年、759ページ)

○インタラクティブ・サイエンス・コラム・メイル1997/11/30 (購読者:770名)
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