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=== Interactive Science Column Mail ==================================
     インタラクティブ・サイエンス・コラム・メイル
           1998/2/22号 (不定期刊)
     本日のお題:凍結バナナと凍結人間
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 昔、「モービル1」という車のオイルのコマーシャルがあった。零下30度 くらいの低温室で、こちこちに凍ったバナナで釘を打っているシーンのあと、 「モービル1」の缶を開けておもむろに傾けるとよどみなくオイルが流れ出 る。これほど、温度変化に強いオイルです、というわけだ。もし「科学CM」 というジャンルがあるとすれば、これは名作中の名作だろう。  で、オイルにばかり注意が行きがちだが、バナナの方に今日は注目しよう。 どうしてバナナで釘が打てるんだろうか?「凍ってるんだから当たり前だ」と いう意見があるかもしれないが、じゃあ、SF映画でこんなシーンを御覧になっ たことはないだろうか?悪漢(怪獣でも怪人でもロボットでも良い)が冷凍 ビームを発射する。すると、ビームがあたった人物はこちこちに凍ってしま う。この人物がおもむろに床に倒れると、体が粉々に砕けてしまう。さて、生 体(含むバナナ)が凍ったときには「釘が打てる」ほど堅くなるのだろうか、 それとも、「倒れただけで粉々になる」ほどもろくなるのか?この両者はどう 考えても一致しない。

 勿論、SF映画の方はしょせん作り物だからうそっぱちだ、という答えはあり うるが、僕の意見ではこの違いは「氷の結晶の大きさ」の違いなのだと思う。 バナナが凍った場合、勿論、バナナの中の水分が凍るのだが、バナナの中の水 分が一度に凍るわけは無い。実際には、バナナの中の水分は小さな結晶の集合 として凍ることになる。この時、結晶の大きさがある程度以上大きくて、お互 いに結合しあえると、全体が堅い物体(=釘を打てるバナナ)になり、結晶が 小さすぎてバラバラのままなら脆い物体(=倒れると粉々になる人物)にな る。実際、最近は「包丁で切れる冷凍食品」があるそうだ。これは「脆い」方 の凍結を利用した技術である。

 じゃあ、どうやったら、脆い/堅いをコントロール=氷の結晶の大きさのコ ントロ−ルができるのだろうか。これは凍らせるスピードに依っている。素早 く凍らせれば氷の結晶は細かくなって「脆い」凍結物を作り、ゆっくり凍らせ れば結晶は大きくなって互いに結合し「堅い」凍結物を作る。ゆっくり凍らせ た方が「堅い」というのはちょっと直感に反するかも知れないが、これは結晶 ができる速度が遅ければ遅い程、結晶は大きくなる、という事実によってい る。例えば、食塩水を蒸発させて食塩の結晶を作る場合を考えてみよう。食塩 水を鍋にかけて一気に蒸発させてしまえば、あとに残るのは細かい粉の様な塩 の粒だが、コップに入れて放置して何日もかけて蒸発させれば、ずっと大きな 結晶が出来る。大きな結晶を作るにはゆっくりと時間をかければよいのだ。

 実際、結晶は大きい方がいいことが多い。例えば、電子回路の基盤に使われ るシリコンはとても大きな結晶から切り出された薄い板である。しかし、大き な結晶を作るには「非常にゆっくり」やらねばならず、コストがかかってしま う。そこで、なるべくきれいな大きな結晶を速く作るにはどうするか?という ことが問題になる。ISCM980129で言及した「結晶成長」とはこういうことを研 究する学問で、だからこそ工学的な応用もいろいろあるのである。

 さて、話をもどす。包丁で切れる冷凍食品は何の役にたつのか?勿論、包丁 で切れること自体、決して無駄なことでは無いが、それ以上の意味がある、冷 凍肉なんかを解凍すると、よくじくじくとした肉汁がでることがある。あれは 肉を凍らせた時に氷の結晶が肉を構成する細胞の壁を突き破ってしまい、それ で融けた時にじゅくじゅくになってしまうためだ。よく、冷凍肉は味が落ち る、なんていうが細胞の壁がぐちゃぐちゃに突き破らていては、味が変わるの も仕方ないと言えるだろう。ところが、結晶が細かくてお互いにつながってお らず、包丁で切れるような場合には、氷の結晶が細胞の壁を突き破っている度 合いが少ないと期待できる。つまり、肉の味が変わらなくて美味しいだろう、 ということになる(本当に美味しいかどうかは知らない)。

 冷凍ビームを浴びた人物が正義の味方の場合、往々にして氷が融けたあと元 気に復活するが、これは冷凍の速度が速くて氷の結晶が細かく、細胞壁を突き 破っていないからだ、と解釈できる。悪漢達は正義の味方をもっとゆっくり凍 らせるべきなのだ。そうすれば、氷が融けてももはや正義の味方は復活できな いのだ(もっとも、ゆっくり凍らせていたら、反撃されて負けてしまうかも知 れないが)。

 なんだが、今日は「空想科学読本」みたいなネタになってしまった。この辺 で止めておいた方が無難だろう。


○インタラクティブ・サイエンス・コラム・メイル1998/2/22(購読者:1222名)
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