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=== Interactive Science Column Mail ==================================
     インタラクティブ・サイエンス・コラム・メイル
           1998/3/09号 (不定期刊)
     本日のお題:個体とは?
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個体、という言葉がある。まあ、基本的には学術用語だが、大体、感じはわ かるのでは無かろうか。この文章を書いている僕は一つの個体である。それを 読んでいるあなたは僕とは異なった別種の個体である。つまり、個体とは、生 物であって、他とは独立して存在している最低限の単位のことである。

 この個体と言う概念は我々が普通に思い浮かべる動物ではわりと問題なく、 定義できる。人間とか、トラとかはもとより、ヒトデの様に一本の腕からから だ全体を復元できるような生物の場合だって、個体はそれなりに定義できる。 腕一本から全体を再生できるなら、腕を切り落とした瞬間に切られた腕と、腕 を切られた母体は2体の「個体」になったのだ。

 これが珊瑚くらいになるとかなりあいまいになってくる。珊瑚とは御存じの 様に非常に多くの個体が集まって出来ている代物で決して一体の生物では無 い。しかし、この場合は群体という言葉が用意されており、「群」という以 上、「個」があってその集合体である、という前提は崩れていない。だから、 珊瑚といえども、個体、という概念からは外れた存在ではないわけだ。

 こうやって考えてくると「個体」というのは生物そのものの定義の様に思え てくる。我々の体を構成する個々の細胞は決して個体では無いが、大腸菌やバ クテリアのひとつの細胞は個体である。生物とはまさに「個体」の追求の歴 史、外界から区別されたひとつの空間をどうやって囲い込み、子孫として再生 して行くか、というこの歴史、だったと言ってもいいかの様に思えてくるかも 知れない。生命=個体、なのだと。今、話題の免疫とかアレルギーなんていう ものも「自己」と「他者」を区別したい、という強烈な欲求、つまり、個体の 確立のための大袈裟な機構に他ならない。

 しかし、ちょっと待って欲しい。ここに大きな例外がある。それもごく身近 に。それは植物である。動物と異なって、植物では「個体」という概念が非常 に不明解である。例えば、挿し木。木の枝を折りとって、地面に挿すと、根が 生えて来て別の個体になってしまう。この過程は無限にくりかえせる。「そん なのさっきのヒトデとおんなじじゃ無いか」と思われる方には継ぎ木を思い出 してもらおう。渋柿に甘柿を継ぎ木すると甘い柿がなることから解るように本 質的に異なった個体同士をくっつけて別の個体を作ることができる。こうなる と継ぎ木した後の木は個体なんだかなんなんだか良く解らない。

 実際のところ、我々が「木」と呼んでいる存在は殆ど植物の死んだ部分であ る。体を支えたり、水を吸い上げたりしてはいるものの、それ自身が生きてい るわけではない。となると、大きな木に生えている葉っぱ同士は「死んだ体」 で隔てられているわけで、挿し木なんかする前から別の個体だと言えないこと もない。しかし、それだってもとを辿れば、たったひと粒の「種」から出来て 来たわけで、そういう意味では卵から発生してできあがった我々の体となんら 違うことは無いはずなのである。

 ガイア仮説、なんて地球全体が一体の生物だ、なんて意見もあるくらいだか ら、人間だって、本当は大きな生き物の一部なのにそれに気付いていないだけ なのかもしれない。あるいは、逆に我々の体を構成している一個一個の細胞の 方が「自分は個体である」と思っているのだろうか?我々は自分が一体の「個 体」だと信じ込んでいるけれども、決してそうではないのかもしれい。


○インタラクティブ・サイエンス・コラム・メイル1998/3/09(購読者:1311名)
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