風の動きは命に関係  

風の動きは命に関係


  今日はちょっとドキッとする話をしよう。君はとても広い大平原のまん中に座ってい る。しかし、困ったことに縛られていて身動きが出来ない。風はそよとも吹いていな くて空気の温度は君の体温と全く同じで熱くも寒くも無いとしよう。このまま放って 置かれたら遅かれ早かれ、君は死んでしまうのは間違い無い。だが、死因は何だろう か?飢え、渇き、それとも、孤独? 僕の意見はそのどれでもない。なんと窒息死なのである。「どうして広い平原のまん 中で窒息死なんてするんだ?空気は一杯あるのに?」と思うかも知れない。普段我々 が生活しているところでは、空気が完全に止まっている、ということはまずない。タ バコの煙りなどを見れば空気は必ずわずかなりとも動いていることに気付くだろう。 この空気の動きの元は、実は、温度なのだ。空気は暖かくなれば軽くなって上昇し、 冷えれば重くなって下降する。どんな部屋でも部屋の中には温度差があるので、空気 は循環することになる。

ところが、君の体温と全く同じ温度の空気の中ではこの空気の動きはあり得ないから 、君のまわりの空気は完全に静止している。顔のまわりの空気中の酸素を吸ってしま ったらそれでおしまい、というわけだ。動きの無い空気は案外混じりあわない。水を 入れてコップに一滴インクをたらしてみよう。かき混ぜればすぐに混ざってしまうイ ンクと水が、かき混ぜなければ混ざるのに一晩くらいかかるのに気付くだろう。イン クは酸素。かき混ぜることは空気の循環。そして一晩放っておかれた場合が「窒息死 」に相当する。

この「方則」は生物の体を構成する個々の細胞にもあてはまる。肺が無い昆虫は空気 を吸い込むことができないので、体の表面から酸素を体内に取り込む管で体内の細胞 に空気を送り込んでいる。前回はトラックのサイズの昆虫などいない、という話を重 さの問題から論じたけれど、この「方則」からしてもそんな大きな昆虫はありえない 。もし、そんな大きさだったら、体の奥の方にある細胞は、椅子に縛り付けられた君 の様に窒息してしまうだろう。

血管など無い大昔の単純な生物にとっては、体表面からあまり奥の方まで酸素を運ぶ すべが無かったので数ミリ以上大きくなれなかった。何センチという「大型」の生物 ができるには血管が作れる程高等な生物ができるまで待たなくてはならなかったのだ 。


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